CALS(アメリカの復権をかけた見えざる偉大な戦略)

アメリカは、日本やドイツさらには新興工業国のあらゆる分野での追い上げで、先端産業や従来からの基幹産業までことごとく打ちのめされています。現在は確 かに日本よりも米国の方が国内の景気感は良いのでありますが、アメリカは、基幹産業全体として見てみるとすっきりしないものを感じておりますし、アメリカ 政府は、1960年頃までのアメリカの覇権を取り戻したい一心であります。今回のトピックスのCALS (Computer-aided Acquisition and Logistic System) は、こうしたアメリカの復権をかけた見えざる偉大な戦略であり、概要を説明したいと考えます。(現在ではContinuous Acquisition and Life-cycle Supportと呼ばれています。)

 

まず、CALSの発祥源は、アメリカの国防省(ペンタゴン)で、国防省と取引関係のある数万社以上のあらゆる業種のメーカーとの取引関係の円滑化、ペー パーレス化を目的としています。アメリカのハイテク戦艦であるイージス艦を例に取ると、登載されたハイテク艤装機器、ハイテク攻撃/防備機器の取扱説明書 や保守/保全マニュアルをいつでも検索し、利用するためには、それらのマニュアル類を艦に常備していなければなりません。印刷物となった説明書やマニュア ル類の重量だけで、イージス艦の喫水線が数センチ下がると言われています。また、ハイテク戦闘機でいうならば、ハイテク攻撃/防備機器の取扱説明書や保守/保全マニュアルを積載すると、戦闘機は飛び立てない程の量となります。こうした現実を踏まえて、アメリカの国防省は数万社以上のあらゆる業種のメーカー との取引情報やそうした取扱説明書や保守/保全マニュアルを一定の方式(フォーマット)に従ってオンラインで受領し、各必要な部署に電子レベルで提供するべく計画し、実際、既に相当なレベルまで実施しております。この方式は単に国防省と取引関係のあるメーカーとの範囲に止まらず、全ての産業界に導入するこ とによって産業界全体を網羅する巨大なデータベースを含むコンピュータシステムの構築を意図しています。又、同時にこれがアメリカの国内だけに止まらず、 ヨーロッパ、日本等を包含して運用されることも意図しています。これは、何処の業者若しくはメーカーがどのような部品、装置、機器を、いかなる仕様及び規 格で、どの程度の価格をつけて販売しているか等を管理運営するためのものです。

 

アメリカがこの仕組み(システム)を構築する上で、ヨーロッパ諸国や一部のアジア(韓国、台湾、シンガポールなど)は、早くから対策を講じて、それぞれの国の利益を組み込めるように努力していますが、日本は現時点では蚊帳の外にあり、情報収集の域を出ていません。CALSの下で構築される巨大なデータベースには、各国共通の品質保証規格の規定類も検討されていますし、データベースに登録されていなければ、アメリカを中心とした色々な国際的な入札の機会をなくし、ビジネスチャンスはなくなってしまいます。このまま手をこまねいていると、欧米中心で官民の電子的な調達ルールが決定してしまい、キャッチアップすることが非常に困難な状況が引き起こされる可能性があります。

 

まさにアメリカの二十一世紀に向けての復権をかけた見えざる偉大な戦略が数年前よりスタートしている訳であります。ではここでCALSのポイントに迫ってみたいと思います。

CALSのポイント

CALSが構築されると、すべての企業自体が、巨大な流通データベースを有するコンピュータを中心として配置され、それぞれの取引が、基本的には製品の仕様、価格、納期、その他必要な条件に従ってコンピュータにより機械的に選択され、特定の条件に合う企業の製品が選び出されるようになります。また系列取引 が減少して、機能本位 、価格本位、品質本位の条件によっても決定されるようになります。(このような状況を電子商流と呼ぶ人もいる。)米国はこのCALS を世界的な規模で構築しようとしています。

 

米国は欧州の企業を取り込み、またアジアの主要国を網羅して、世界の数十万社の製品/サービスの仕様、品質、価格、納期、その他の必要な情報を登録し、受発注業務はもちろんのこと、さらには企業間での機械装置の開発段階でのデータ(CADデータ等)の受け渡し、納期の短縮化、開発経費の節減を図ることや、 前段で説明した例えば取扱説明書等を含めたすべての情報をCALSで処理する計画です。こうした概念を包括して”電子商流(electronic commerce)”と定義している場合があります。しかしながら、米国が構築しているCALSの実体には、単に電子商流と言う語で説明しきれない巨大なウネリが感じられます。

 

キーワードを使用してCALSを分析してみたいと思います。

 

Electronic commerce(電子商流/電子取引)

各業界で定められた一定の規格や基準に従っている機械/装置/その他の製品は、すべてCALSを司る巨大な流通データベースを有するコンピュータシステム に登録されます。ユーザーはコンピュータシステムにアクセスして、自社が必要とする仕様の機械/装置/その他の製品をメーカー別 、価格別、納期別の観点より検索します。機種、メーカー、価格の条件が適合すれば、CALS内の電子受発注業務のフィーチャーを使用して処理します。これによって一つの発注と受注が成立します。

 

Networking(ネットワーク化)

希望すれば世界中の業者がCALSに参加できます。即ち世界中のメーカー、商社、利用者が巨大なネットワークで結ばれるのです。差別化情報と共通情報によって、完全なネットワークが成立することになります。

 

Database(データベース)

世界中の業者の取扱商品、仕様、価格、性能、納期、適用規格/基準が統合されて強大なデータベースを構築します。

 

Electronic mailing(電子メール)

電子メールの機能は、日本国内では、例えばNIFTY-SERVE, PC VAN、世界的にはINTERNETなどで、すでに色々なサービスが提供されています。

 

しかしながら CALS内のElectronic mailingは、業務のすべてのフェーズで発生する通信、受発注が瞬時に、一対一、一対多数、多数対一の状況に応じて可能となります。

Standard integration(unification)(規格/基準の統合化<統一化>)

例えば機械を製作する上での規格/基準が、確かに現在ISOで統合化/統一化されていますが、基本的には、各国がそれぞれの規格を持っています。例えば日本のJIS、米国のANSI、英国のBSI、また別の切り口から見ると、米国国防省のMIL規格、同じく労働安全上のOSHA、米国保険業者のUL規格など、実に様々な規格や基準があります。CALSを運用する上で、このような様々な規格や基準をいくつかに統合化/統一化しようとしている訳です。この点で、CALSに非常に積極的な米国と欧州はせめぎあいをしております。CALSへの日本の立ち遅れは、こうした規格の面から見ても非常に不利な状況を発生させる恐れがあります。企業によってはCALSの行方に無関心ではいられません。

 

Commerce at light speed(光速の商取り引き)

今までのキーワードで説明した様に、CALSの発達によって、製品の選定から納入までは現在までの商取引と比較して非常に短時間で処理されるようになるこ とから、”光速の商取引”という定義が生まれたのです。 Electronic enterprise integration(電子的な企業の統合化)その都度、取り引きによって電子的に企業の離合集散が始まります。あるプロジェクトに最適な企業連合が成立し、入札の連合体が可能となります。

 

Even business chance(均一なビジネスチャンス)

CALSが本格的に運用されると、加入の企業は均一なビジネスチャンスを確保することになります。反面、何か得意な点、例えば技術力、価格競争力、短納 期、開発力で、世界の企業と競争する可能性も出てくることになります。すなわち、均一なチャンスがある反面 、世界の企業との競争という苛酷な状況も生まれてくるのです。

 

EDI(Electronic data interchange)(電子情報交換)

EDIの例としては、縫製メーカーと量販店との関係に見られる受発注業務の電算処理が挙げられます。この場合には、非常にクローズドな状況の中での電子情 報交換であるといえます。というのは、縫製メーカー(A)が量販店(B)と別の量販店(C)と取り引きして、量販店(B)と別の量販店(C)が使用してい るコンピュータシステムが異なるメーカーのものであれば、縫製メーカー(A)は二台の端末機が必要となるからです。この状況が例えば日本中で起これば大変 です。従って、異なった業種で、異機種のコンピュータシステム間において色々な取引にかかわる情報を電子的に受発信するシステムがEDIそのものです。

 

EDIの場合にはいわゆるビジネスデータの交換に主眼がおかれていますが、CALSではこのEDIの特徴を生かしつつ、さらに機械や装置関係の開発、設計 時に発生するCAD/CAMデータ(技術データ)の交換フォーマット(STEP = Standard for the Exchange of Product Model Data)や取扱説明書をはじめとするドキュメント管理、ひいては色々な業務プロセスの記述/分析に対応することになります。

 

Electronic platform(電子プラットフォーム)

CALSは電子プラットフォームと言うこともできます。例えばJRの東京駅のプラットフォームを想定して下さい。全国各地からの列車が入り、出ていきます。あるいは別の言い方をすればハブ空港とも言えます。あらゆる情報が世界各地から一定の数の駅あるいはハブ空港に該当するコンピュータシステムに入り、 瞬時にして相手先に伝達されていきます。

 

Electronic immigration(電子移民)

電子移民と言う聞き慣れない言葉ですが、これもCALSが運用されると、ハイライトされる点となるでしょう。この言葉の由来は、現在、ドル換算で世界で一 番高い人件費の日本を目指して、世界から合法、非合法にかかわらず就業移民が数十万も来ていますが、今後は、知的作業、例えば開発設計業務、研究業務に従 事するためにわざわざ日本に居住する必要がなくなるのです。能力があれば、世界中から募集して電子的に頭脳集団を組織し、結果だけを電子的にアウトプットし、CALSを通して日本の国内に電子的に取り込む・・・・・こうしたことがCALSのデータ交換フォーマットを利用して容易に可能となります。 思いつくまま、CALSの定義として適当であると考えられる特徴を述べました。CALSが大体どのような概念であるかご理解いただけたものと思います。

 

CALSの参考文献

(1)CALSの実像(21世紀に生きるために)/圓川隆夫他著/日経BP出版センター
(2)産業情報ネットワークの将来/今井賢一他著/日刊工業新聞社
(3)絵で見るCALS/日刊工業新聞社
(4)CALS(米国情報ネットワークの脅威)/石黒憲彦他著/日刊工業新聞社

 

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