製造物責任制度の主な対策

 

社内に製品安全委員会を設置する


通常の会社組織とは別に、役員を委員長として社内の技術部門、営業/販売部門、また総務/管理/法務部門から人選して製品安全委員会を設置します。日頃から定期的に製品(製造物)がもつ潜在的な危険を知ることや、製品の計画・ 企画、設計、製作・ 製造、使用・ 活用、保守・保全、最終的には廃棄処理に至るライフサイクルに於て、色々な対策を協議、実施するなどの活動を進めて下さい。 また、この委員会の議事録やそこで決定した対策の克明な記録を残すと同時に、決定事項が遂行されているか調査します。この委員会は、社内で実施すべき安全体制の確立を達成するために相当な権限を持つべきであり、主たる任務は、社内の組織、経営/マネジメント、製品の安全性、ユーザー情報などあらゆる視点から活動することです。 特に米国で裁判に持ち込まれた場合には、社内でこの種の安全委員会が設置されており、かつ定期的に活動していることは、陪審員の心証を良くすることにも役立ちます。

 

各製品安全委員は自分の職務分野に関連のある事項を担当して定期的に調査をします。さらに、PLP(Product Liability Prevention=製造物責任予防)について、社内動機づけ(Motivation=モチベーション)を履行し、製造物責任の予防活動を活発化します。PL裁判は、特に米国の場合には弱者救済型の裁判になりやすいので、製造物責任が発生しないように、この予防活動が絶対的に必要です。

 

 

カタログの表現を検証してみる


カタログに、”最高”、”最良”等のような至上を表す言葉を使用しないようにします。これらの至上を表す用語を使用したばかりに、裁判で有罪となり、多額の賠償金を支払ったケースがあります。最近までの日本のカタログ類は、何でもかんでもできる式の内容のものが多かったのですが、PL対策としては、米国事例から判断すると、できることはこれだけ式のものであり、それら以外の用途に使用した場合はすべての責任は使用者にある、という旨の字句を随所に記載する必要があります。 特徴の記載についても、ある特殊な使い方や技能をもって操作すればやっと可能である様な機能を特徴に加えてはなりません。”明示の保証”を与えることになり、通常の使用者から機能不備として損害賠償を受ける可能性が高いのです。

 

普通一般の使用者が、通常の方法で使用可能な機能だけを記載するようにします。要するに、特徴の記載には細心の注意が必要なのです。この”明示の保証”とは、米国では、誇大な表現によって使用者または消費者が期待する性能に満たないものを約束したり、保証したりすることを意味します。またこれは、売買の重要な要因となり、PL訴訟において完全に不利となります。これは、厳格責任制度に立脚する米国の裁判では、必ずしも文書やカタログでなくても、例えば、営業マンのセールストークでも明示の保証を構成するということがあります。”黙示の保証” とも言います。

 

 

社内規格が製造物責任制度に耐えうるか


全て規格というものは、技術的な進歩とともに改定されるものであり、ある意味では、その分野で、ある製品が一般 に認められるための最低の基準でもあります。
社内規格は特定の製品を作成するために必要な規範であり、社内の誰が作っても、この基準をクリアしていなければならないものであります。また、色々な業界で公的な機関の規格が存在する訳ですから、社内規格は公的な機関の規格をさらに掘り下げて、自社製品の万全を期するものであり、常時、自社製品の安全性の向上に貢献するものでなければなりません。

 

さて、製造物責任制度の下では、使用者が製品の欠陥を立証する必要はなく、ただ通常の使用をしていて、危害が発生したという事実があればよいのです。製品の重大な欠陥あるいは何らかの不法行為が立証されると製造業者側は、懲罰賠償金を請求されることになるのです。(これは米国の事例です。日本ではこの懲罰的な賠償制度は採用されませんでした。) 一例をあげてみると、”O製薬会社が開発した強心剤の臨床使用報告書を、会社の研究員が、副作用が全く認められなっかたと偽造して厚生省に提出し、医薬品検査に合格した。その後、フィールドにおいて色々な副作用が報告されている”という新聞報道がありましたが、これが米国の場合であれば、完全な不法行為ですから、多額な懲罰賠償金が課されることになります。

 

社内規格がこの製造物責任制度の下で、色々な条件を満たしているかどうかを再度検討し、全面的な改定作業に着手して下さい。又、この改定を開始する前に、製造物責任制度の理念と最終的な目的が何かを理解しなければなりません。

 

 

社内の文書管理は製造物責任制度に耐えうるか


開発から製品完成に至る期間の色々な書類は、思想として使用者の安全を第一とし、”潜在的で予見できる危険性”を網羅しているかどうかが重要となります。

 

これらの資料は、開発企画書を含むすべての文書類、安全係数を計るためや、設計上の科学計算のための数値情報データ類、設計そのものの図形情報に分類し、ハードコピーとして、あるいは、コンピュータやワープロの電子レベルで、完全に保管します。万一、PL問題が引き起こされた場合には、反証あるいは抗弁の資料として利用できるようにするべきです。社内の文書管理については、アーカイブシステム(Archive system=文書保管システム、当社FITCEN NEWSLETTER NO. 95-002を参照)を構築することが必要です。
このアーカイブシステムは、製造物責任制度と今後一層重要となる品質保証制度との関係において構築することが大事で、文書の発生順、重要度、属性によって分析されます。このシステムの下で製造物責任制度や品質保証制度の証拠書類として管理される訳ですが、無秩序にただ保管するだけでは、いかに大容量 のコンピュータシステムであると言えども、使用容量がすぐに満杯となってしまうことでしょう。

 

 

製品販売後も必要な情報を使用者に提供しているか


より安全な使い方、より便利な使い方、誤った使用による事故事例を網羅したブリティンを作成して、定期的に使用者に提供するようにします。これによって、潜在的な事故を未然に防止することができます。

 

 

下請加工会社、部品の調達先、材料の調達先と品質保証協定を結ぶ


この種の品質保証協定は通常よく見られるものでありますが、この品質保証協定も、PL対策として改定する必要があります。
将来、万一、当該の調達先からの部品が原因で損害賠償の請求を受けた場合には、調達先も応分の負担をする内容としなければなりません。調達部品や調達加工品の寸法検査、強度検査、外観検査などのいわゆる受入検査全体を見直し、特採規定を厳密にします。但し、このPL対策を講じた部品の調達先との品質保証協定の内容決定は非常に難しい側面 を持っていると言えます。
例えば、自社にとって、ある部品が非常に重要であっても、調達先の全体の売上げの中で占める比重が非常に小さいものであるならば、又は、協定において、内容的に責任の追求が厳しいものでるならば、この協定はスムーズには締結できないかもしれません。
例として、ある日本の半導体メーカーと米国のボーイング社との一件があります。このメーカーとボ社が4年間、共同開発した新型旅客機「B777」向けの制御用LSIの供給について言及するのですが、ボ社が、万一事故が発生し、パーツが原因であることが立証されたなら、米国の製造物責任制度に従って、供給先に賠償責任を負わせるという契約条件を提示したために、このパーツメーカーは、このパーツの事業規模の割には賠償責任(直ぐに人身事故に繋がる)をとるリスクが大きすぎるとして、このパーツの供給を断念したケースがあります。

 

また同一部品を複数の業者から調達している場合には、部品がどの業者からのものか特定できる方法ないしは、マーキングを用意するべきです。又、外注部品のサンプルを保存することも必要です。さらに、この概念に入るすべてのOEM契約、ライセンス契約、輸入契約も、このPL対策の一環として、内容を再吟味する必要があります。

 

 

設計の原点に戻る


機械は有用性と危険性の両方を提供します。この概念をまずよく理解しておくべきです。そして有用性の比率を限りなく100%にし、危険性の比率を限りなく0%にすることがポイントです。

機械の動き(回転運動、直線運動、飛び出し運動)のすべてを分析し、対策をとらなければなりません。JIS規格の B 6014-1980によると、例えば、工作機械や機械加工に潜在する危険を次のように規定しています。
(1)衝突の危険
(2)挟撃の危険
(3)剪断の危険
(4)巻き込みの危険
(5) 引っかきの危険
(6) 切れの危険
などです。これらについて、基本設計において、出来るかぎり回避手段をとるようにします。 避けられない場合には、それらの危険部分を覆う安全防護手段を設けたり、フェイルセーフ手段を設けます。さらにどうしても、危険の回避が充分でない場合には、明瞭な文字、絵記号を添付して、作業者が明瞭にかつ即座に知覚できるようにします。

 

 

安全装置の取付方法をチェックする


どのような機械や装置においても大なり小なり何らかの安全装置、安全手段が取り付けられています。この取付方法を再度検証する必要があります。 これらの安全装置は多くの場合、機械の生産効率を低減したり、あるいは若干の操作上の手間を増加したりすることがあります。機械の使用者やあるいは雇用者は生産効率を高めるために、安全装置を本体機械から取り外したり、あるいは本来、安全装置が取り付けられた意図を理解しないで、別の自作の安全装置を使用したりするかもしれません。
極めて簡単な例ですが、一定の過負荷がかかる場合、電流の供給を遮断し、動力源である電動機や機械システム全体を保護するノーヒューズブレイカー(NFB)をより大きい容量のものに交換して使用することがあります。このような機械の設計者の意図を無視しての不用意な安全装置の取り外しや、改造もしくは交換を防止するために、保守との関連性も考慮しながら、容易に取り外しが出来ないような方法で設置しなければなりません。

また、機械上でそれらの安全装置にスペースの余裕があれば、取り外し、改造、交換を厳禁する警告ラベルを添付することが必要です。
さらに、取り外しによって起きる危険が非常に重大であるときには、それらの安全装置を取り外すと、電源(駆動源)そのものが自動的に遮断されるような構造、すなわち、インターロック機構を設けることが必要です。 さらに、安全装置やインターロック機構を設置する場合に、機械の全般的な評価との関係は次のようになります。即ち、自社機械もしくは製品がどのような安全属性をもっているかの検証で評価されるのです。一般的に機械や色々な製品は、安全性を高めるために、設計性能(能力)と実際に使用できるレベルには乖離があります。(この乖離のことを”性能のデイレイティング”といいます。)潔癖信頼度の域(通常の安全使用範囲)を拡大することを妨げている部位、部材は何かを検証することが肝要です。

 

(このレジメは拙書”製造物責任、その実践的対策”からの抜粋です。)

 

 

上記に記載のnewslettersの著作権は、株式会社福山産業翻訳センターに帰属します。
取り扱いには、ご注意下さい。